短い5つの物語を纏めた短編集第一弾。
巡り行く歴史の上を、必死で生きている私達を
命懸けと云わずして何と云う。
企画・演出・脚本 / 蜜野 なつ
作曲・編曲 / 原里 穰
歌唱 / 手島 アリサ 蜜野 なつ
コーラス / 蜜野 なつ 原里 穰
出演/
ハコ …手島 アリサ
マントル…蜜野 なつ
耳たぶ …南 リ子
真実か虚構か。空想か現実か。
世紀の大ニュースに”ええじゃないか”と踊り出す街中で、
顔も知らない三人が待ち合わせていた。
思い出は箱に仕舞い込んで、お気に入りのジャケットを着た。
こんな時に、思い浮かぶ顔が一つも無い。
心を覆う固い殻の下で、誰かと繋がりたいと本音が脚をばたつかせる。
喧騒の中でも耳を劈くサイレンの音。
電子の向こうにいる見知らぬ友人に会う為、人混みを駆け抜ける。
太陽がなんだ。暗闇がなんだ。絶望がなんだ。
天国なんて知らない。確かに生きていたという実感は、痛みよりも苦しい絶頂のトキメキ。
さよならを言う前に、彼女たちはエンドロールへ旅に出る。
出演/
花の様な女… 手島 アリサ
「さあ、始めて。」
女が思い出すのは、描いていた夢の景色。
その号令と共に騒ついていた劇場内はしんと静まり、今から始まるドラマに傾聴していた。
あれから幾つの幕をくぐったのだろう。何度照明を浴びたのだろう。
もうステージを照らす光も、拍手を贈る観客も、躍動する役者もいない。
世界が溶暗してから何度夜を超えて、朝を迎えたのだろう。
思い出すのは、生命輝く劇場の景色。夢は死を以って幕を閉じる。
女が思い出すのは、描いていた夢の景色。
出演/
少女の歌… 南 リ子
ラジオの声…蜜野 なつ
コーラス…蜜野 なつ・原里 穰
太陽が帰還した時、私達はようやく洞窟から抜け出せた。
砂埃の中、微かに聞こえたラジオの声を頼りに、諦めきっていた肉体を奮い立たせる。
行かなくては。進まなくては。
ここはまだ終点ではないのだ。
ノイズ混じりに歌う少女の声が、瓦礫の中で寂しく踊っている。
出演/
アイリーン…蜜野 なつ
閉ざされた鉄扉の下で、労働者たちは生きていた。
勿論アイリーンもその一人だった。
いつもの様に汚れながら仕事をしていると体に少しの温かさを感じた。振り向くとうっすら、光が見える。見上げても廃棄物の山から出るガスがうねるばかりで、何も見えない。
気のせいか、と再び手元に目線を移し、配管から漏れ出た汚水の水溜りが目に入った。
アイリーンは目を見張った。見た事もない、青く輝く”小さな天井”がそこにあったのだ。
天井を見つめた。のけぞらんばかりに見つめた。排ガスの向こう側にある物を見つけようとした。
この地下にはおとぎ話があった。
古いラジオから流れる、壊れかかった希望の物語。
アイリーンと仲間達は確信した。ただの空想ではなく真実なのだと。
空や大地が本当に存在するのだと。
そしてそれは鉄扉の上に暮らす者達の所有物ではなく、全てに平等であると言う事を。
星はゆっくりと輝き始めた。
まだ見ぬ、本物の「空」に憧れて。
Format : Digital